天駆ける龍

≪禁/無断転載≫ BL味の小説を書いてます。 たまに、バトンや戯言なんかも書き散らします。  時々暴力的表現、非人道的表現、および性表現のある場合もありますので、 一応≪15禁≫。

+咎人の恋+ 46

― 黄金の月 18 ―

薙は鷲尾会、会長高塔に継ぐ、組のTOPだ、そのTOPが勝手に抜けるでは済まされない。
当然薙は組構成員に私刑を受けなければならない、勝手に組を抜けるのだ、その道はくぐらねばならなかった、薙にもそれくらいの覚悟はあった。
このままこの道にい続ければいつかは由佳里にさえ誄が及ばないとも限らない、極道の女と見られ、この先ドコでどんな被害をこうむるかもしれないのだ。
由佳里は極普通の温かい家庭に育った極普通の娘だ、それでも、温かい家庭に今もいてくれればまだよかった、でも最近由佳里は薙との時間を増やす為、アパートを借り、一人暮らしを始めていた。
一人暮らしとなると、危険は弥増すばかりだ、万が一にも由佳里を巻き込むワケにはいかなかった。
……それにもう、これ以上、変わってしまった蓮を見ていることが出来なくなっていたのだ。
由佳里を護るため、と言う理屈をつけて、薙は堕ちていく蓮を止めることが出来なかった自分から逃げたのかもしれない。

組構成員に抑えつけられ、手塚や土屋に殴られ蹴られている薙を、蓮は黙ってあの冷たい百足のような目で見ている。
何を考えているのか、その動かない表情からは窺いしれない、殴られて、思考が麻痺してきていた薙には、リンチにあう自分を冷ややかに見ている蓮が浮岳と同じ腐りきった人間に見えていた。
薙が、自分がこのまま、ちょっと前まで仲間であり、友人であった者たちに殴り殺されるのかもしれないと思い始めた頃…… 。
蓮が口を開いた。

「手塚、もういい、やめろ」
「…… 」

そのまま殴り殺されてもおかしくない状況だったのに関わらず、蓮はそれを止めたのだ。
蓮に止められた手塚が離れる、蓮はゆっくりとした歩みで薙に近づき、虚ろになった薙の目を覗きこむ。
その目は相変らず無表情でなにを考えているのかわからないが、よく見ればどこか淋しそうにも、残念そうにも見えた。

「薙…… お前には失望した、とんだ腰抜けだったな」

低い声で脅すようによう呟いて、蓮は薙の両肩を押さえ、腹の真ん中へ膝蹴りを入れた。
その衝撃に呻いた薙が倒れ掛かる、だが、組員に支えられている為に自ら倒れるコトは出来ない、その薙を押さえ、蓮はさらに何度も蹴りを入れた。
血反吐を吐いた薙が倒れ掛かる、ソコを押さえつけて最後に拳で殴った。
薙は両脇を組員に支えられ、虚ろになった目で、それでも僅かに睨んでいた。
蓮も目を逸らさずに薙を見据えている、その瞳には暗く淀む大きな失望と、憎悪が見えるような気がした

「もういい、……裏切り者に用はない、出て行け薙、俺の前から消えうせろ」

蓮が、どんな気持ちでその言葉を言ったのか、その時の薙には理解出来なかった。
殴られる自分を冷たい目で見ていた蓮の態度に傷つき、腰抜けの裏切り者と言われたことに傷つき、頭の中が正常に働いていなかったのかもしれない。
ただどこかやりきれない思いを抱え鷲尾会事務所を一人出て行ったのだ。

薙は、痛む身体を引き摺って外に出て、空を見上げた。
そこはその日の気分と境遇をあざ笑うかのような上天気で、上空には雲ひとつない青空が広がっていた。
その空は、昔蓮と見上げた空とドコも変わらない。
薙はボロボロに傷ついた心と身体を引き摺って、昔よく蓮と遊びに言った川沿いへむかって行った。

御堂公園は川沿いにある大きな公園で、高校時代から蓮とよくいった。
由佳里と三人で行く事もあったが、だいたい二人で出かけた、二人だけで川沿いを歩き、いろんな話をした。
将来のこと、学校のこと、苦手な勉強の話や、色々…… でも、そういえば色恋の話はあんまりしなかったような気がする。
蓮はそう言うコトにあまり興味がないようで、女と言えば由佳里の話ししかしたコトがない、男の話し…… はしたが、それも須崎のコトくらいしかないし、別にゲイだとかいうワケでもないだろう。
そんな事を考えながら川沿いの散歩道を歩くと、途中に大きな団栗の木のある場所まで来た。
その場所へ懐かしく座り込む、蓮ともよくそこで二人、座り込んで話した。
薙は頭の隅で、こんな時に考えるコトじゃないよなと思いながら蓮と過ごした夏を思い出していた。

川の流れを見つめる高塔の横顔が綺麗で、一人達観した感じの様子に何となくモヤモヤして…… そうだ、よくココの芝に押し倒してキスしたっけ。
キスすると、高塔はすぐ真っ赤になってうろたえて、少し大胆に突いてやると泣き出したりするから、それが可愛くてツイツイ何度も仕掛けちまった。
お蔭で高塔にはすっかりアッチ系だと思われちまったし、それならそれでと俺もだんだん大胆になって、ちょっとヤバイトコまでいったっけ…… 。
でもアイツはそれでも逃げるでもなく、靡くでもなく、いつも当たり前みたいに隣にいた。
アイツは俺のモノだって勝手に思い込んでて、手塚が現れた時にはずいぶん苛々させられたんだ。
手塚に高塔を盗られそうな気がして、奴が現れてから高塔を押し倒す回数、絶対増えたよな…… そう考えると、もしかして高塔に彼女ができなかったのは俺のせいか?
いやでも、別にヤマシイ気持ちがあったワケじゃねえし…… いや、あったのか? いやない、なかったハズだ。
でも高塔は? アイツはどう思ってたんだろう? 別に嫌がってはいなかったと思うが…… 。

そこまで考えて薙はふと蓮の心情を考えた。
そういえば自分は今まで蓮が何を考え、どう思っているのかを、本気で考えたことが一度もなかったような気がする。
蓮はいったいあの口づけをどう受け取っていたのだろうか?
蓮自身がそういう事を望んでいるとは見えなかった。
だが…… あの日、白峰浮岳に見せられたあのフィルムは…… あのフィルムの中の蓮はまるで男娼のように、いや、セックスドールのように見えた。
薙はその時のコトを思い出し、怒りと悲しみの他に、蓮に対する劣情と欲望、熱く疼くモノを感じたコトを、恥入った。
そして万が一にも、心の中だけでさえも許されない想いを瓶詰めにして固く固く栓をした。

『タカトウ…… オレハオマエガ…… 』

そう思う事だけで胸が苦しくなった、声が出せない。
声が出ない。
思い切り叫びたいのに、声が出なかった。
声が出ないぶん、想いだけが深まっていく、薙はその場から立ち上がり、目の前に流れる川に向かって、想いの限りに叫んでいた。
決して前へ出るコトのないその叫びは、それからずっと、何年もの間、薙を苦しめるコトとなった。


――――――――

「白峰浮岳を殺したのは、柳原薙…… 浮岳は鷲尾会会長である俺を呼んだ、だが会長が留守の為、単身白峰邸へ乗り込み、そこで目撃した白峰浮岳の異常さに恐れをなし、その場で全員を殺害、その所業の齎す結果に怯え鷲尾会を抜け現在逃亡中、鷲尾会は全力を挙げて柳原薙を燻り出す、見つけ次第抹殺、以上」

鷲尾会の全構成員の前でそう宣言した蓮の声に迷いはなかった。
薙が消えた今、須崎まで失くすワケにはいかなかった、そうなれば蓮はもう動けなくなる、犯人は薙、そうするしか蓮に残された道はなかったのだ。

見つけ次第抹殺。
それは非情な命令であったが、誰もソレに異議は唱えなかった。
生きたまま連れ戻り、蓮の目の前で死なせるほうがよほど残酷だとわかっていたからだ。

―― なぎ…… 。

蓮は、口の中だけでその名を呼んだ。
もう二度と、交わることのない二人の道を思い、心の中だけで泣いていた。


続く。    戻る。


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蜂蜜革命 21

※本日は、久しぶりに「蜂蜜革命」への拍手を頂きましたので、
お礼更新いたしました、拍手いただいた匿名の方、ありがとうございます。
後で「咎人の恋」もアップする予定ですので、もう暫くお待ちくださいね。


― BODY and SOUL 5 ―

暫く楽しそうな二人を見ていた拓巳が席を立つ。

「悪い、もう暫く休んでる、そっちは適当にやってな」
「タクミくん大丈夫? 」
「拓巳! ねえ待って、」

二人に呼び止められて噴出しそうになった。
俺に気を使う間があったら彼女に使えよな、お前みたいな阿呆には出来すぎのツレだぜ、直哉。

「こっちものんびりしてえんだよ、そっちもそっちでゆっくりしてろ、」

そう言って部屋を出てからなんとなく気になってもう一度リビングを覗いてみた、直哉とルミが話してる姿を見つめる。

「キミのおかげで今日は拓巳と普通に話せた、感謝してるよ、もしキミがいなかったらきっと最悪に険悪な朝になってたと思うありがとう、ルミちゃん、」
「アタシはべつになにも、ただお茶を飲んでただけよ」
「それでも、助かったよ」

そう言ってからルミの顔を見つめ、頬に触れ、そっとキスをしていた。

なんだかんだと言いながら、ちゃんとやることはやってるんじゃないか、最低だな、あのクソヤロー!
少し腹も立つけところだが、ルミのことを思うとこれでいいのかもしれない、阿呆で手癖が悪くて最低な男だけど彼女は直哉にベタ惚れだ。
直哉は、結婚はしないといってたけど、考えてみたら半同棲状態で衣食住ともに殆ど直哉の世話は彼女がしているようだし、夫婦同然じゃないか、素晴らしく魅力的で観音様みたいなルミと医者としての腕は確からしいが、頭が軽くて性癖は最低な直哉は案外似合いかもしれない
そんなことを考えながらあてがわれた部屋へ入り、フト頭に浮かんだ顔。

アイツは今頃何をしてるんだろうか…… ?

仕事中、だよな、人をこんなトコに押し付けやがってよく平気だな、電話くらいよこしたらどうなんだ。
だいたいアイツは薄情者なんだ、別れたとたんにすぐ忘れるタイプだな、電話が無理でもメールの一つくらいよこしたらどうなんだろう。
気がつけばアイツのことばかり考えてしまっていて自分がどんなにアイツに嵌ってしまっているかを暴露しているみたいで無性に腹が立った。
まだ一日しかたっていないのに、なんでこんなに会いたいと感じるんだろう。
声がききたい、顔が見たい…… メールでもいいからお前に触れたい。

電話…… してみようか、俺が?

そういえば俺、自分から誰かに電話したことなんかなかったかも…… 。
いつも受けるばかりでまだかけたことがない、よく考えたらかけ方が分からなかった。
メールしてみようか? でもまだ一日目なのに、何を言っても笑われそうな気がする。
それにもう一度よく考えてみたらメールも受け方一方で自分からメールしたことなんかなかった。
返信以外の送信をしたことがない、その上もっとよく考えてみたら、アイツのアドレスなんか知らないじゃないか…… 。
まあ当然といえば当然か、同じ家に住んでてメールもクソもねえよな。
途方にくれて携帯を見ていたらいきなり着信音が鳴った。
ディスプレイに緑色で鮮やかに浮かんだネームは、

「 MASATO 」

そのネームを見ているだけで動けなくなった。
今欲しいと思ってたものだ、どうして欲しいと思ってたモノ。
ソレなのにどんなにそのコール音が鳴り続けても、なかなかそのコールに応えることが出来なくて、迷い続けてやっと出ようと決めて…… 。
でもそのコールは突然切れた。

たった二十四回のコールで切るなんて、あの根性なし!
なんだか余計に腹が立って、携帯を放り投げてやった、そしてそのまま部屋の真ん中で床の上に転がる、まだ身体が本調子ではないらしい、かったるい。

「……バカヤロー」

本当に休んだほうが良さそうだ、少し眠ろう。

「ね、携帯鳴ってるよ、メールじゃない? 」

床の上にに無造作に投げ出してある白い携帯を手にとった藤木が声をかけると拓巳は慌てて飛び起きた。
見れば藤木はもう既にメールを開封していた、そしてムッとした顔で文面を読み上げる。

「 NIGHT HARD 二十二時 SOU …… このSOU、ってのは例の吉祥寺蒼のことだね、」

一度は俺や雅人からさえも拓巳を奪い、勝手な言い分で山中に置き去りにした男。
実際あの事件がなければタクミの左手足は二度と動かなかったと思うけど、やっぱり許せない、なんで拓巳はそんな奴といまだに付き合い続けているんだろう?

「かせ! こら、勝手に見るな!! 」

後ろからちょっと怒った拓巳の声が聞こえてきた。
携帯を取り上げこっちを睨んでいる、だって、こんなところに放りだしておくんだから見てくださいって言ってるようなもんでしょ?

「雅人からかなと思ってさ、」
「……アイツはメールなんかよこしたことはない、」

少しふて腐れたようにそう答えてメールを確認している。
息をついて何か思いつめるように目を閉じる、そして長く閉じていた瞼を再び開いたときには戦う覚悟をきめたようだった。

「今夜十時に、NIGHT HARDに行く、戦えるようにしてくれ」

この時ばかりはこっちもいい加減な対応は出来ない、キミの命にかかわることだし、何より負けさせるわけにはいかないんだから。

「OK、じゃ、こっちきて、」 


その夜三試合を全て圧勝した拓巳は調子にのってしなくてもいい三試合目を受けたことについて藤木に説教されていた。

「なんでキミはそう余計なことするの! もう無理は出来ないんだからね、今だってほら、電池が切れちゃって腕も上がらないくせに勝手なことばかりしちゃダメだろ! 」
「いいだろ、勝ったんだから! やり足りなかったんだよ、」

叱られてふて腐れた拓巳が部屋のベッドに転がりながら文句を反すと藤木がすかさず反論の反論をする。

「いいわけないだろ! 何度も言うようだけど、キミの身体はもうキミ自身のフルパワーに耐えられるようには出来てないんだ、ずいぶん加減したけど、それでもアレだけの力を発動させたってことは身体への負担は莫大なものなだよ、長生きしたかったら、もう二度とあんな無茶なマネはしないでくれ、」

無茶なマネ、ソレは第一試合で蒼を負かし、第二試合でとうとう出てきたキャンサーにさえ圧勝した時のことだった。
前回、ボロクソに負けたこともあって、今回の試合は拓巳に賭ける者は少なかった。
が、その試合で見違えるような動きをみせ、キャンサーを叩き伏せ、勝ってしまったことで一部の客が興奮して騒ぎ出したのだ。
歓声と怒号のなかリング上の拓巳は騒ぐ観客に向かって指を立て笑った。
そして、「文句があるなら上がってこいよ、可愛がってやるぜ」と挑発して見せたのだ。
そのとたんに興奮した客の一人がリングに上がってきて、瞬く間に我も吾もと上がりこみ最終的には観客十一人対拓巳一人のバトルロイヤルになってしまった。
それでも素人相手に圧されるような拓巳じゃない、適当にあしらいながら客をなぎ倒してやっているとお客様に怪我をさせるわけにはいかないと、オーナー美山からクレームがついた。
余計な真似をして会場を混乱させた罰則として三試合目に強制エントリーとなってしまったわけだが、ソレはその時の拓巳にとっては好都合だったらしい、本当に暴れたりなかったのだろう。
もちろんその三試合目も圧勝した、けれど試合終了直後からすでにエネルギー切れをおこしはじめていたらしい拓巳は、送り迎えと体調管理のため同行していた藤木のいる席に戻ってくるなり立ち上がれなくなってしまったというワケだ。

三試合を圧勝していつもの二倍近いファイトマネーを受け取った拓巳を忌々しげに睨んでいるオーナーを横目で見ながら、吉祥寺に手伝ってもらって車まで運び、そそくさとうちへ帰ってきた

「もう二度と馬鹿なマネはしないでくれ、ウチでも、雅人のとこででもいいから、もっと自分の身体を大切にして、静かに暮らすんだ」

普段チャラけた言葉遣いの直哉の口調が変わるとき、それはいつもは拓巳が自分を大事にしていないと判断したときだけだ。

「キミがもし死んだら俺も生きてはいられない、その覚悟はいつでもある、でも絶対に死なせたくはない、だから約束してくれ、この試合が終わったらもう二度とこんな事には手を染めないと、」

真剣な、願いをこめたセリフが重かった、そうだな…… お前の言うとおりかもな。

「キミも、まだ死にたくはないだろう? 」
「 ……分かった、」

あと二日、四試合、とにかくソレを終わらせて忘れるんだ、あの高揚感と充実感を。
全てを忘れて…… 生きる。

それでいいのか? それで生きていると言えるのか? 
本当にソレしかないのか。

       
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【続きが気になる、早く更新して欲しいモノはありますか?】

【アナタのお気に入りのキャラは?】


ついでに何となくもう一個(笑)
【私の、そしてアナタの好きなアーチスト】




DRAGON φ MUSES 11

殆んど引き摺るようにして酔っ払いの旭を自分達の席まで連れ戻る。
椅子に座らせた時点で旭はようやく周りの様子を認識したらしい、あたりを見回して飛田の姿を確認すると嬉しそうに抱きついていった。

「あー! とびたさんめっけ、つっかまえたーっ、」
「……オメエはなに寝ぼけてやがる、さっきも会っただろうが」
「そーだっけえ? んふ…… 」
「うふっじゃねえ、馬鹿! 」

どうにも話にならない、酔っ払って抱きついてくる旭の髪をクシャクシャと掻き混ぜてから引き離そうとするが、旭は離れそうもない。
ハラハラするのは隆史のほうだ、旭が飛田に懐いているの知っていたが、普段は隆史や圭の手前、それほどあからさまにひっついていく所は見たことがなかった。
だが今日は酔っ払っているコトと、圭が元彼と一緒にいるという事で自棄になっているのだろうか? 勢いが旭を大胆にさせているようだ。
飛田の逞しい腕にしがみつくようにして寄り添い、嬉しそうに飛田の胸に指先でなにやら字を書いている。

「なにやってんだオメエはよ、くすぐってえだろうが! 」
拳固で脳天を叩かれても怯まない、半べそながらも引っ付いた腕は離さなかった。

「いたぁいーっ、なんでブツのぉ、おれとびたさんすきなのにぃ…… 」
「そういう台詞はお前、彼氏に言えっての、大丈夫かよ、そろそろ帰ったほうがいいぜ? 」

「やぁーだ、おれはぁ、まだのむの、んでぇとびたさんとあそぶんだもん」
「遊ぶってオメエ…… 」

いいでしょ? そう言って上目遣いに瞳を覗き込む旭を見て飛田も一瞬詰まった。
旭の周りに、今までとは違うなんとも言えない艶が纏われているのがわかるようになったからだ。
あの生意気な小僧、尾崎圭と付き合うことで旭の中にあった天性の何かが引き出されたのか? 初めて会った時と比べると、その色気は天地ほどの差がある。

「いいのかよ、本当に…… 言っとくが俺は甘くねえぞ」
「いいよ、だってとびたさんとはさいしょからそういうやくそくじゃん…… おれ、ずっとまってたんだからね」

「そうか…… そういやそうだったな」
飛田は急に思い出したように自分に絡みつく旭を見つめ抱き寄せる、そしてその肩を抱いたまま席を立った。

「ちょっと! 慶一郎さん、旭くんをどないするつもりやの、なあ! 」
隆史が慌てて追いかけてくる、飛田は酔っ払った旭を支えてやりながら背中越しに答える。

「コイツには三十万の貸しがあるんだよ、いつかコイツがソレに見合う男になったら返してもらう約束だ、文句は言わさねえぞ」

「それに見合うって…… そんなん何いつの話やの? 」
「そんな前じゃねえよ、半年ちょっと前か? 」

「うんうん、そう、で、おれ、さんじゅうまんのかちできたかなぁ? 」
無邪気にそう尋ねる旭は圭のコトなどすっかり頭から抜け落ちているようだった、ヤバイ、これは絶対不味いだろう。
隆史は慌てて旭の袖を引いた。
「ちょい待ち旭くん、いかんやろ、なあ! 圭くんになんて言うの、それとも圭くんとはもう終わってもええと思っとるんか? 」

「けい…… くん? ……だって、いないじゃん、どこにもいないじゃん、いないひとになにをいうのさ、ねぇ? 」
「旭くん、それ本気で言うてんの? なあ旭くん今夜は酔うとるよ、後で絶対後悔するで、なあ、旭くん!! 」

追い縋る隆史の手を振り払い、飛田が睨む。
「お前も今夜は旭を堕とす気でいたんだろ? そういう奴に説教たれる資格はねえんだよ、」
「そやけど慶一郎さん! 」

「邪魔すんじゃねえよ、じゃいくか旭? 」
「うん…… いく、」

そう言ったまま、旭は飛田と店の奥にある一室へ消えていった。
ヤバイ。
これは最悪のパターンだ。
隆史はこの店に来たことを大きく後悔していた。
コレが圭に知れたら修羅場になるコトは確実だ、しかも始末が悪いコトに、旭の場合、飛田には前々から、圭とそういう関係になる前から好意と憧憬を持っていた。
今までは飛田のほうにその気がなかったのでその望みは叶わなかった、だがもし飛田が旭を望んだとしたら、旭は圭を捨てるのかもしれない…… 。
隆史はまさかと思いつつ、その想像を否定しきれなくなっていた。


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+咎人の恋+ 45

― 黄金の月 17 ―

バタバタと、廊下を駆け込んでくる足音が聞こえて、蓮は目を開けた。
どうやら夕べはあのまま須崎に抱かれ眠ってしまったようだ、須崎も上着を脱いで蓮の肩を抱くようにしたまま、眠っていた。
蓮の肩には須崎の上着が掛けられていて、その上からさらに毛布を被り、二人ともベッドの上に座ったまま眠ってしまったらしい。
蓮が目を開けるとほぼ同時に須崎も目を開けたので、一瞬、見つめあう形となり、ドキリとした。
その時蓮は、自分が須崎に対して何を求め、何を欲しがっているかというコトに気付いてしまったのだ。
だがそんな動揺はほんの一瞬のコトだった、ノックもなしにいきなり入り込んできた跡部の齎した事実がソレまでの全てを覆してしまったからだ。
勢いよく開けられたドア、飛び込んできた血相を変えた跡部、そしてその口から出た言葉はあまりにも突飛過ぎて、俄かには信じられない言葉だった。

「高塔さん、大変です、薙様が鷲尾会を抜けさせてくれと申し出てきました! 」

「なんだって?! 」

返事をしたのは蓮ではなく、須崎のほうだった、蓮は須崎の腕にしがみついたまま、ただ呆然とし、固まってしまっていた。


薙が抜ける?
薙が消える?
薙が逃げる…… ?
それは俺を見捨てるという事なのか?
蓮の頭の中には前日の浮岳邸での出来事が反復されていた。

昨日、組の用事で事務所を空けていた間に、浮岳から連絡が入り、自分には知らせずに薙が浮岳邸へ向かったと聞き、蓮は慌てて浮岳邸へ走った。
浮岳が呼び出したのは自分だ、そしてそれは急の事で、それだけ浮岳の渇きは深いものだと想像できた。
蓮を甚振り、辱め、抱くことでしか晴らせない浮岳の心の闇を充分理解していた蓮は、自分以外の人間が浮岳を怒らせたら即行嬲り殺される事になると分かっていたので、死ぬ思いで浮岳邸へ急いだのだ。
薙を、京極の二の舞にはさせたくなかったからだ。
そして飛び込んだ先の、あの忌まわしい部屋で、果たして薙はリンチにかけられていた。
だがまだ意識もあり、それほど酷い傷も付けられてはいなかった、蓮は心の中で安堵の溜息を漏らしながら浮岳に頭を下げた。
……と、同時に天井から降りてきている大型のスクリーンと、浮岳の狂気に責め立てられ破廉恥な声をあげている自分の映像を見た。
浮岳は、コレを薙に見せたのか…… そして見せた上でさら私刑にかけているのか…… ?
その時の、蓮の絶望感は筆舌に尽くしがたかった。
薙にだけは知られたくなかった、見られたくなかった、浮岳は蓮のその思いを知っていて、ワザと見せたのだろう、自分の命に背き、他のモノをこの部屋へ来させた蓮へ、精神的プレッシャーをかけるために、ただその罰のためだけに、蓮が嫌がるとわかっているコトをワザワザしたのだろうと理解できた。
だがその時の蓮には、その辛さも、慟哭もゆっくりと感じる暇はなかった。
どうにかして薙をこの場から出し、浮岳の興味から外させなければならなかったからだ。

浮岳は薙を殴れといった、逆らうワケにはいかない、もちろん上げ足を取られないように思い切り殴った、それだけで心が痛かった。
そしてまたもっと殴れと言われた、その要求は果てしなく、もしまた殴ったとしても、その後の要求も容易に想像できてしまっていた蓮は、浮岳を怒らせるとわかっていて薙をその部屋の外へ投げ出したのだった。

以前、浮岳の命に逆らい、蓮を庇う仕草を見せたボディガードがいて、浮岳は自分に逆らい、自分の玩具をまるで生き物のように扱ったそのボディガードの行いに激怒し、鬼畜の所業を蓮に命令した。
衆人環視の前で、その男の肉棒をしゃぶり、固く猛ったその肉に自ら身を沈め、ソイツをいかせろと言われたのだ。
そして蓮はその命に従った。
それはそうすることで浮岳の気を静めたかったからでもあり、そうしなければ自分を庇ったがタメにその男は殺されてしまうだろうと思ったからだったのだが、その考えすらも甘かった。
蓮が腰を使い、そいつを感じている時、その男もいつの間にか蓮の身体に溺れ、快楽に負けて自ら蓮を責めたて始めたのだ。
そしてその男と共に、快楽に溺れ、ほんの一瞬我を忘れたその時、その男がイクその直前だったろう…… 銃声が響き、男の額に穴が開いていた。
蓮の裸の胸に、顔面に、男の脳髄が、血飛沫が飛び散り、体内には男の放った最後の精液がぶちまけられ、蓮はそのまま気を失った
そのあと、あの男の遺体がどうなったのか、蓮が知るコトは出来なかったが、たぶん浮岳とその手下の手で闇に葬られ、死んだことすら明るみにはならなかったのだろうと察した。
大都会の真ん中、ヤクザな人生を送っていた社会のゴミが、一つ減ったコトになど、誰も関心を寄せはしない。
今もつながりがあるかどうかは知らないが、あの男にだってきっと家族や友人もいただろうに、その者たちには、男が死んだコトすら知らされるコトはないのだ。

この状況で、浮岳があの時と同じ要求を蓮に課さないとは限らず、蓮もそれだけは避けたかった、だから怒りを買う覚悟で薙を外へ投げ出した。
だがそんな蓮の思いも、薙には通じてはいなかったのかもしれない。
薙からしてみれば、蓮が浮岳に溺れ、支配され、浮岳と同じ醜く歪んだ人間へと変貌してしまったように思えたのかもしれない。
そうして、血の通わない冷血動物以下の百足になってしまった蓮に恐れをなし、汚らしい行いに身を沈める蓮に嫌悪し、もうついてはいけないと判断したのかもしれない…… 。

蓮の最悪の想像は、想像でしかなく、本当の薙が何を考え、組を抜けようのしているのか、それはわからなかった
だが薙はただの構成員ではない、仮にも組のトップに立つ会長補佐だ、そのトップがただ抜けるでは済まされない、そんな事を認めれば、鷲尾会は組織としての形が保てなくなる。
示しだけはつけなければならなかった。

「……で、薙は今ドコに? 」

出来るだけ冷静に聞いた。
跡部も、その心情を慮ってだろう、努めて冷静に返事を返してきた。

「今、事務所にいます、拘束し、土屋と道明寺に見張らせてあります」

「わかった、じゃ今行く…… 須崎、」
「はい」

立ち上がり、ベッドから降りた蓮に呼ばれ、須崎も上着を羽織り、蓮の後に続いた。
蓮は跡部が用意してきた衣服を身につけながら須崎に命令していた、今須崎がいなければ自分は自分を保てなくなる。
「夕べの計画は白紙だ、まだ離れるコトは許さん、いいな? 」
「はい、高塔さん」


――――――――

事務所へ戻ると、薙は粗末な椅子に座らされ、その椅子にロープで固定されていた。
そしてたぶん蓮が戻るまで待てなかったのだろう、その前では手塚が薙の胸座を掴み、殴りつけ、怒鳴っている。

「てめえ! どういう了見なんだ、え?! なに考えてやがる、俺たちを捨てるのか? 高塔を捨てるのか?! 今更テメエだけ真っ白な道に戻ろうってそういう魂胆かよ、え、どうなんだ?! 」

手塚に殴られても、詰られても、薙はなにも言い返さなかった、ただ黙って手塚の目を睨みつけている。
それは薙の決意がそれだけ固いことを示している。
蓮は手塚を退かせ、薙の前へ立った。

「薙…… なぜ抜ける? 理由を言ってくれないか」
「……もうついていけない、俺には我慢できねえんだよ」

「ついていけない? 何に? 極道の世界にか? それとも俺に…… か? 」
「両方だ」

「そうか…… 」

お前にはついていけないと答えた薙の目は怯えていた。
よほど昨日の出来事がショックだったのだろう、怯えと嫌悪感、そして失望と絶望感とで黒く濁った目をして、全身で蓮を否定しているのがわかった。
怒りが込み上げる。
哀しいのか、悔しいのかわからない。
今まで自分がしてきたコトは、すべて他のみんなの為に、良かれと思ってきた、薙にも、格別の思いであたり、できるだけ薙の意に反したコトはしないよう、させないようにしてきたハズだった、なのに、ソレすら通じてはいなかったのか?
それとも、そんな配慮さえも払拭させるほど、昨日の出来事は衝撃的だったのか?
手が震える。
怒りと悲しみで蓮の頭の中はまるで煮え滾った油を注ぎ込まれたように沸騰していた。

バシッ!

乾いた音がして、薙の顔が歪む、蓮が固定されていて動けない薙の頬を平手で殴ったのだ。
殴った蓮の手はひどく震えていて、固く握り締められた拳がまるで泣いているようだった。
しばらくそうして薙を睨みつけていた蓮は、ゆっくりとその背後へまわり、拘束しているロープを解いて薙を立ち上がらせた。
そしてその傍に立っていた土屋と手塚の肩にポンと手をかける。

「……だ、そうだ、出て行きたいというモノを引き止める気はねえが、一応薙は幹部だ、勝手に抜けるってのをハイどうぞと認めるワケにもいかねえからな、お前等、薙に相応のオトシマエをつけさせろ」

「あ、ぁあ、わかった、」
「承知しました」

手塚と土屋は数名の組員に手伝わせ、部屋の隅へと薙を引きずって行った。


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天龍へのアンケート


DRAGON φ MUSES 10

「おい、アイツあのままほっといていいのか? 」

Blue Feather の片隅で旭はその日始めてあう男と遊んでいた。
遊ぶ、と言っても、別に厭らしい意味ではない…… 。

つまりお互いにじゃんけんをしたり、クイズを出したりしながら、負けたほうが勝ったほうの注文したカクテルを一気飲みする、という、まあノリとしては居酒屋で若者がやっているようなモノなのだが、ムードはアヤシイ。

店へ入るなり隆史は先に来ていた飛田と出くわした。
飛田とは以前お互いなんの感傷も感情もなく、ただ一夜の快楽を得るためだけに関係を持ったコトがあった。
それ以来顔を合わせていなかったので、隆史もついつい長々と話しこんでしまったのだが、そうこうしているうちに、旭が見知らぬ男にナンパされ、そのままその男のテーブルへついてしまったのだった。
相手の男はこの店の常連で、飛田に会うため何度かココへ訪れたコトのある旭にずっと目をつけていたらしい。見た目も性格も、スタイルも、中の上、平均点よりは少しマシ、程度の男だが、音楽関係の仕事をしているとかで旭とは話も合うらしい。
それに、言いたくないが、声がいい。
旭は知る者は知る、声フェチだ、声のいい相手にはすぐ懐く。
元々音感というか耳のいい旭は何よりも耳から入る情報を重んじる。
声のいい相手の言葉は旭にとってセックス前の前戯のようなモノで、心地良さに離れられなくなり、ずっと話しこんでしまう、その話題が何気ない話であっても、聞いているだけでその相手に傾いていくのだ。
いくらそういう目的のある者同士があつまる店と言っても、必ずしも思う相手にめぐり合えるというわけではないので、だいたいその手の男達は話し上手な者が多い。
旭はその男の声に聞き惚れ、さっきからもう幾杯飲まされてるかしれない、たぶん最近中では一番過ごしているだろう。
そして今また、ちょっとした遊びの賭けに負けた旭がオレンジ色の液体を飲み干していた。

「ね、倉橋くん? あ、旭って呼んでもいいかな? 」
「ん? ……いいよぉ、どうぞ、ってかごめん、アナタはなんて名前だっけか? 」

「三浦真史、……もう、全然聞いてない? さっきも言ったんだけど? 」
「あー、そっかぁ、うん、聞いた聞いた、マー君ね、うん、うん」
ニコニコしながらそう答える旭を横目に三浦真史は溜息をついていた。


「アイツ、この三分後にはまた名前を聞くぜ、相当酔ってるなありゃあ…… 」
飛田が老婆心ながらやれやれというように呟くと隆史も心配そうに旭を見ていた。
「圭くんと付き合うようになる前は、よくあんな旭くんも見たわ、なんか声さえよけりゃ誰にでもすぐ懐いてもうて、俺はいつもハラハラしとった…… けど、圭くんと付き合うようになってここずっとそういうコトはのうなってたんやけどな、まだあのクセは抜けとらんのやね…… 」

「あのクセ? 」
「ああうん、旭くん酔いが回ると、自分で自分の言うてるコトもようわからんようになってもうてな、なんでも、うんええよって言ってまうのよ、誰か傍についとらんと危ないんや…… 」

カウンターを基点に丁度旭達の席と点対称の位置にいる隆史と飛田はハラハラしながら成り行きを見ていた。

「ね、旭? もうずいぶんお互いのコトとか通じ合ったと思うんだけどな、」
「……うん? そう、だね」

「僕はもっともっと旭のコトを知ってみたくなった、旭はどう? 」
「うん? ぁあ…… そう、かな…… ? 」
「本当? そう思ってくれるかい? じゃあいいのかな? 」
「? ぁん? なに…… ? うん良いんじゃない…… ? 」

旭の目はもうかなり潤んで表情は薄ぼんやりとしている、たぶんもう相手が誰なのかもわからず、何を言われているのかさえわかっていないだろう。
相手の男はソレに乗じ旭を奥の部屋へ連れ込もうとしていた。
そうなると、さすがに隆史も飛田も黙ってみているワケにも行かなくなった。
飛田はチッと舌打ちをして、仕方なしに、旭のいるテーブルへ向かった。

「おう、兄ちゃん、ソイツは俺の連れだ、そういう話しは俺を通してからにしてもらわねえと困るぜ? 」

飛田がTシャツの袖をまくり、刺青を見せびらかしながらそう言うと、その男は飛田の迫力に負けて席を立った。
「す、スイマセンでした、ごめん、なさい」
「わかりゃ良いんだよ、わかりゃ…… 」
飛田はそう言ってもう一度旭を見た、どうももう、グロッキー寸前のようだ。


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+咎人の恋+ 44

― 黄金の月 16 ―

問題は、コレを目撃して生き延びている輩がこの屋敷にいるかどうかだった。
本宅と違い、浮岳の私邸のほうは浮岳が本当に信用している数名のボディガードしかいない、常時多くても二十名程度のものだ。
だがもし、あの部屋以外にも誰かいたら大変なコトになる。
須崎と跡部はもう一度手分けして屋敷中を探り、誰も生きて動いている者がいないコトを確認した上で気を失っている血塗れの蓮を連れこっそりと戻っていった。


その三時間後、蓮は目を開けた。
須崎と跡部によって身奇麗に洗浄されて間に合わせの浴衣を着せられた蓮は薄目を開け、目の前にいる二人をボウッと見つめている。

「高塔さん、……気がつきましたか、大丈夫ですか? 」
「……蓮、坊ちゃん、私がわかりますか? 」

跡部と須崎が代わる代わる声をかける。
返り血を綺麗に洗い流すと、蓮自身にそれほどヒドイ傷はなかったが、手の爪がいくつか剥がれ落ちていて、強姦されたらしい痕もあった、その後のあの惨状だ、まず蓮が正気であるかどうかが問題だった。
だが二人の心配を余所に蓮は正常だった。

「須崎、お前に坊ちゃんって呼ばれんの、久しぶりだな…… 跡部、すまなかった、面倒をかけた」

「いえ、そんな…… 」
「坊ちゃん、意識はキチンとしていますか? 何をなさったか覚えておいでなんですね? 」

「ああ…… 」

蓮は穴の空いた心と、耳たぶに手をあてて、静かに答え、自分のしたコトを、そしてもう二度と戻らない赤い石を思いだしていた。
暗く湿った、カビとヘドロだらけの排水溝に落ちたあの石は、蓮の最後の良心だった。
あの石はもう二度と戻ってこない、自分がこの汚らしい世界から這い上がれるコトはもうないんだ。
自然に涙が落ちた。
浮岳殺しは重罪だ、連合を敵に回すだけではすまない、連合は、白峰会は浮岳を殺したモノを許さないだろう、そしてその下に連なる者、全てが制裁の標的になりうる。
自分ひとりの勝手な振る舞いが、自分の愛する全ての者たちを窮地に陥れたのだ。
蓮の後悔は大きく、絶望感は果てしなかった。

「坊ちゃん、お疲れでしょうが、お聞きください」
「……なんだ」

「浮岳を殺したのは私です、私が、白峰浮岳の坊ちゃんへの狼藉を目撃し、逆上してソコにいたモノを皆殺しにした、そして組を抜けて逃げた、……そういう事にします」

須崎は静かな表情でそう言った。
だが、そんな事に頷くワケには行かない、ベッドに伏していた蓮は、勢いよく起き上がり、須崎の静かな顔を見つめてワナワナと首を振った。

「ダメだ! ダメだ、ダメだ、ダメだ!! そんなコト絶対ダメだ、俺は許さないからな!! 」

許さないと言われても、実際はそれ以外に打つ手がないのは須崎も、跡部も、そして蓮自身もわかっていた。
蓮を殺人犯として警察にというワケには絶対にいかない、そうなれば、精神鑑定やクスリによる異常行動などを追及される、今までの全ての醜聞も明るみになり、蓮はマスコミにとって恰好の餌食になるだろう。
だが警察に捕まらないとすると尚悪い。
今度は白峰会の連中に追われる、それは即ち関東一円の極道に追われることになり、掴まれば最後、目せしめにどんな死に様を与えられるかわからない。
そして鷲尾会は解散どころか、悪くすれば現在鷲尾会に連なる全ての人間が連合、白峰の標的になるかもしれない。
それだけは絶対に避けなければならないコトだった。

「坊ちゃん、どうか冷静になってください、それしか手段はないのですよ」
須崎は自分が犠牲になるコトで鷲尾会を、そして蓮を救えるのなら安いモノだと言った、だが蓮にはとても承知出来ない内容だった。

須崎は自分が幼い頃からずっとお守り役として近くにいてくれた。
父親は嫌いだったし、ヤクザになんかなりたくなかったが、須崎のことだけは好きだった。
いつも傍にいて、でもけっして甘やかすことなく、蓮を一人前の男として育ててくれた、人生の師のようなものだ。
孤独だった少年時代須崎だけが話し相手だった。
蓮にとって須崎は、歳の離れた友であり、兄であり、大きな組の組長として毎日忙しく不在がちだった父親に代わる保護者であり、何者にも変えがたい、大事な男だった。

「ダメだ…… お前がいなくなったら俺は…… 会長だなんて言ったって、お前がいてくれたから、ココまでやって来れたんだ…… ダメだからな、絶対…… 許さないからな」

須崎が浮岳を殺したと言うコトになり、組を抜けて逃げたとなれば、鷲尾会も面子をかけて全力で須崎を探さねばならない、そうして捕まえて、制裁を加えて見せしめの為できるだけ酷い死に様を作らなければならない。
それも、たぶん、その頃連合を実質的に動かす立場になっているだろう蓮自身の命で行わなければならないのだ。
そんなコト出来ない!!
出来ないとは言えないとわかっていて、それでも尚、蓮は出来ないと泣いた。

「大丈夫です、跡部がいます、跡部はもう充分私の代わりが務まるでしょう、それに坊ちゃんには土屋も、手塚も、そして薙様もいるじゃありませんか、大丈夫ですよ」

静かにそう言った須崎の決意は固いようだった、確かに、それ以外打てる手はないのだ。
跡部がその役をやるには無理がありすぎる、跡部一人では浮岳と、そのボディガード合わせて十一名を皆殺しには出来ない、だが須崎なら…… 父親の代から極道の世界に生きて、修羅と恐れられた男だ、須崎以外にそんなコトが出来る奴がいるとは思えない。
それしかないのだ。
蓮は黙るしかなかった、そうしなければ鷲尾会に未来はない…… 。

蓮が納得したと思ったのだろう、須崎はでは、と言って席を立った。
だが立ち去りかけた須崎の袖を引き、蓮が泣き出しそうな目で引き止める。

「須崎…… せめて朝まで、いや、俺が眠るまでででもいい、もう少しココにいてくれ…… 」

「坊ちゃん…… 」

朝がきたら、今度目覚めたら、自分は須崎抹殺命令を出さなければならない。
ソレが辛かった。
跡部はその心情を察知したのだろう、席を立った。

「俺は外で見張りをしています、須崎さん、高塔さんをお願いします」

跡部が席を立ち、部屋を出ると、須崎は蓮のベッドの縁へ座り込んだ。
そして仔犬のような目をして自分を見ている蓮の頭を撫でる。

「どうなさいました、また今日はずいぶんお子様の頃に戻られたようじゃないですか」
「お前が坊ちゃんなんて呼ぶからだろ…… 」

頭を撫でられた蓮はもう泣いていた、須崎は自分のコトをほんの子どもの頃からを知っている、須崎の前では気を張る必要はないのだ。
行くなよ、そう言いたくて、でも言えなくて、蓮はただ須崎の肩に縋りつく。
須崎は自分の腕の中で静かに泣いている蓮の髪を撫で、その背に手を添えてゆっくりと告白をした。

 蓮坊ちゃん、坊っちゃんには極道の道に進まず、真っ当に高校を卒業して、真っ当な生活を送る人生を選ぶことも出来たんです、ソレを私の我侭でこんな道を選ばせてしまった、本当に申し訳ないコトをしました。
 でも坊っちゃんは私の期待を大きく超えて応えてくれました、こんなに早く鷲尾会が関東のトップに立てるとは思ってもいませんでした、ありがとうございます。
 本当にすいませんでした、私は坊っちゃんの優しさにつけ込んだのです、坊っちゃんが私等を見捨てられないとわかっていて、坊っちゃんに、必要以上に過酷な運命を背負わせてしまったことを申し訳なく思っています。
 こんな私から、偉そうに言えたギリじゃありませんが、明日が来る前に、私から坊っちゃんにお願いしたいことがあります。

須崎は優しく蓮の肩を抱き、涙を零して俯いていた蓮の顔を上げさせ、その濡れた瞳を覗き込んだ。
そして不思議そうな顔で自分を見つめてくる蓮に頭を下げて続けた。

 クスリにはもう二度と手を出さないでください。
 そしてどうか、坊っちゃんが自ら連合を仕切ってください…… 。
 どうか、私等のような火愚槌の子孫が安心して生きていける場所を作ってやってください。
 お願いします。

そう言って頭を下げる須崎を見つめ、蓮は固く心に誓っていた。
もう二度と、クスリには手を出さない。
そして誰を、何を蹴落としても、必ず自分が関東の頂点に立つ、……と。


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DRAGON φ MUSES 9

「圭…… 今日はもうええで、帰りや」

貸し切りの客が帰ったあと、蒼太はテーブルを片付けている圭の肩を叩いてそう言った。

「え? でもまだ皿とか洗うてないの残ってますよ、ええんですか? 」
「ええから帰り、お前明日も仕事入っとるんやろ? さっさと帰って寝や」

蒼太の言い方に妙な違和感を覚え、変に邪推をしたくなった。
大体蒼太は自分を引きとめこそすれ、追い出そうとするコトは珍しい、なにかあるとしか思えない。

「なんでですか? もしかして先輩俺を追い出そうとかしてへんですか? 」
「そんなんしてへんて」

「嘘ですよ! 俺は騙されんですからね、蒼太先輩なんや企んどるんやないですか?! 」
「うっさいヤツやな、そないがならんでええわい、そんな俺とおりたいんか? とんだ甘えん坊やな? 」

くいさがろうとする圭に蒼太は取り合わない、それどころか視線さえ合わせようとしていない、ますます怪しい。
これは蒼太が自分に隠し事をしてる時の反応だ、さっき春海がコソコソと話しかけていたこともあり、圭はムカムカする内心を抑えきれずに、思わず怒鳴りそうになった。
だが、その前に、蒼太の活が入る。

「お前…… こんなトコでのんびりしとってホンマにええんか? あきらくんはホンマになんも言うとらんかったんか」
「……え? なんで、どういう意味ですかそれは、」

夕方、自分に計画を持ち込んできたのは隆史のほうだ。
計画どおり自分は圭を連れ出した、となれば、隆史のほうは絶対旭を連れ出しているハズだ。
たしか予定通りなら旭の仕事は八時には終わっている、長引いていたとしても、九時には終わっているだろうし、隆史が手を回していないワケがない。
今はもう真夜中、二時を回っている、もし、隆史が旭を連れ出して、なにかしようと思うなら、充分すぎる時間が経っているコトになる。
旭が隆史と間違いでも起こして、圭から離れていけば、それはそれで好都合だし、別にそれを止める気はなかったし、そうなった時の、圭の落ち込む姿は容易に想像できた。
そうしたら自分が慰めてやるつもりがなかったワケではないが、どうもそういう姑息なやり方は性に合わない。
……かといって蒼太は、ソレをワザワザ圭に教えてやるほど良い人でもないつもりだった。

「別になんだってええやろ、お前は自分であきらくんをほってんやから、あとで何があろうとも文句は言えへんで! 」
「なんかってなんですか! やっぱり蒼太先輩なんか知っとるんやないですか、教えてください、なんなんですか!! 」

どうも圭は引っ込みそうもない、グズグズしていると春海がくる、鉢合せはマズイ。
蒼太は仕方なく、計画の一部を話した。
夕方、隆史が店にきて、最近圭が張り付いているから旭と遊べなくてつまらないと言っていたこと、そして別に自分はソレに協力してやる気ではなかったが、結果的に圭を引き止めたコトになるので、今頃は隆史が旭を誘ってどこかに連れ込んでいるハズだと…… 。
その途端に圭の顔色が変わる。
旭がどうしているのか急に不安になったらしい。
もし、即行なにか行動を起こしているとすれば既に手遅れと言って良い時間が経っている、圭の焦りは当然だろう。

「先輩、そんなん知ってて、俺を呼んだんですか? タカさんと協力して俺等を引き離す作戦練っとったんですか? 」

圭は本気で怒っているようだ、だが蒼太もそうそう負けてもいられない、圭の目を睨み殴りつける勢いで答えた。
「アホ、俺が他人に指図されて動く人間やとお前は本気で思うとんか? 」
「や、それは…… 思うとりませんけど」

蒼太に睨まれてさすがに怯んだ、確かに蒼太はそんな他人の持ちかけた姑息な計画にのるような人ではないはずだ。
そう思って少し項垂れ、様子を窺うと蒼太はさも心外そうに話した。

「俺は単に今日の団体客を捌くんに一人や足らんと思うただけや、他に意味はないで」
「はい、それは…… すんません、そうやと思います」

どうも蒼太相手だと強気に出られなくなる圭が怯んで項垂れると、蒼太は圭の背中をバシンと叩いた。

「あきらくんが心配なんやったら、それは自分で何とかせい! お前は誰でもない、あきらくんを選んだんやろ? 俺を捨ててもあきらくんがええて言うたんやで、しっかりせんかい! 」
「は、はい、スンマセン! 俺がアホやったです、ホンマ半端してすんませんけど、今日はコレで抜けさしてもらいますわ、旭くん、探します! 」

「おお、そうせい、さっさと行き、」

「はい! スンマセン、また今度、今度は旭くんと二人で寄らしてもらいます、今日は楽しかったです、ありがとうございました!! 」

圭はそう頭を下げて、蒼太の店を走り出ていった。


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恋する詩神 122

― 螺旋上の恋 16 ―

「ごめっ…… ごめんなさい、あの俺…… 」

泣いている旭を見ていると圭も言葉が出ない。
旭が好きで好きで、会いたくて会いたくて、ただソレだけを思って二週間も待ったのに、ようやく会えた恋人と愛を交わすことも出来ないのが辛かった。
でも、それ以上に、自分の考えのない行動で旭を怯えさせたことを後悔し、見知らぬ恋人である自分を一生懸命受け入れようとしてくれていた旭の健気な気持ちを踏み躙るような事をした自分に嫌悪した。

「旭くんが好きやって、そんだけで…… 旭くんの気持ちを考えてやれんで、考えが足らんかったです、ホンマすんませんです、……ごめんなさい! 」

「けいくん…… 」

項垂れて、ただひたすらに頭を下げる圭を見ているウチに、旭の中でも何かが動いた。
「好き」という気持ちだけしかなくて、出会ってまだ数時間しか経ってないけど、自分はこの青年が好きだ。
見惚れるほどカッコイイ立ち居振る舞いも、意外に可愛い笑い顔も、こうして項垂れて頭を下げる優しいところも、やっぱりみんな好きだ。
それだけで、いいのかもしれないと思った。

「いいよ圭、俺のほうこそ、ごめん、急だったから、ちょっと怖くなっちゃって、でも…… もう大丈夫だから、ね? 」

「旭くん…… 」

さっきまで泣いていた旭は、まだ少し濡れている目で優しく笑っている。
圭は旭の気持ちに感動して危うく泣きそうになったが、それはこの際、ちょっとかっこ悪いので堪え、真摯な表情を作り、ありがとうございますと、また頭を下げた。

「あの、……で、いいんでしょうか? しても」
 オズオズと訊ねると、旭はちょっと困ったような顔で上目遣いに圭を見て此方も恐る恐る訊ねてくる。

「その前に、きいておきたいんだけど…… 」
「なんですか? 」

「俺たちって、やっぱりその…… そういうコト、とかってしてた、の? 」
「って、セックスですか? いや、まあそんな頻繁にというワケでもないですけど、まあ…… してました、けど…… 嫌ですか? 」

「嫌…… じゃあないケド、でも圭くん、男の子だし、俺なんかそういうのよくわかんなくて…… どうしたらいいのか」

旭は経験済みの身体の疼きと、未経験の心の間で、途惑っているようだった。
どこかゾクゾクとして疼く熱いモノを感じつつ、でもどうしたらいいのか、わからない。
それに未知の世界を覗くことへの恐怖感もあるようだ。
考えてみれば当たり前だ、たしか旭は圭が抱くまで、誰とも、そういう事をしたコトもなければ、したいと思った事もなかったと言っていた。
折角覚えたモノを忘れてしまったので、またイチから覚えなおさなければならないワケだ。
だが、実際身体のほうは忘れていないようなので、それほど手間ではないだろう。
圭はもう一度、イチから旭に教えていこうと思った。

スイッと立ち上がり、不安げに自分を見上げている旭に右手を差し出した。
日頃芸能界で磨きに磨いた女の子どころか男でも、イチコロで手をとってしまう極上の微笑を向けると、旭も反射的に手を出し、極自然に圭の手をとった。
旭に気付かれないように出来るだけ何でもなさそうな顔を作ってヒョイと立ち上がらせる。
実際は軽くチカラをいれ、引き寄せているワケだが、ソレを感じさせないように気をつけているため、手を取っているほう(この場合旭)は、まるで自分が自主的に立ち上がったような錯覚を起こす。
ソコが狙いだった。
あくまで、無理強いではなく、旭が自主的に圭に従ったと思わせる、そのほうが旭の気持ちを動かしやすい。

圭は立ち上がってコッチを見ている旭の方を少し首をかしげて見つめ、今度は優しく、囁いた。
「旭くん…… もし嫌やなかったら、ベッドへ行きませんか? 」

さすがに旭も今度は即答は出来ないようだ。
暫く困ったような驚いているような複雑な表情で黙り込み、ジッと圭を見ていた。
だが、長くそうして圭を見つめていた旭は、少し視線を落して返事の代わりに小さく頷き、圭に手を引かれてゆっくり歩きだす。
寝室へ入り、ベッドの縁に旭を座らせて、圭は静かにその前へ跪いた。
少し震えている旭の手をとり、最初は手の甲へ、そして次に掌へソッと口づける。
旭はたぶん本当にどうしたらいいのかわからないのだろう、まるで思い出せない目の前の魅力的な恋人のするコトをじっと見ていた。
「ありがとう、旭くん…… 」
真摯な顔で旭を見つめ、そう一言添えてから、圭はおもむろに旭の羽織っているバスローブの前を少し肌蹴けさせチラリと覗く綺麗な足へ手を当てる。
旭は小型犬が身震いするように小さく震えながら、それでも圭のするコトに逆らわず、ジッとしていた。
両足の内側に掌を当て、少しだけチカラを入れ、両足の間に僅かな隙間を作る。
旭は逃げなかったが、チラリと覗き見たその表情は泣き出しそうに不安げだ。

「怖いですか? 」

圭が様子を窺うように聞くと、旭は泣きそうな顔をしたまま黙っていた。
やはり、出会って数時間ですぐ、というのは無理があるか…… 圭は旭の心情を慮って最後の確認にもう一度訊ねた。

「旭くん、もし、怖いんやったら、嫌やと思うんやったら、遠慮なくそう言ってください、俺も無理にはしたないし、ソレに、さっきも言いましたけど、俺修行が足らへんですから、一度始めてしまったら、旭くんが嫌やて言っても泣いても、途中では止めれんと思うんです、……だから、俺のタメにも、旭くんのタメにも頼んます、嫌やったら、そう言ってください、今夜はせんときますよ、俺、旭くん欲しいけど、嫌われたら困るし、旭くんが本当にいいと思えるまで待ちますよって…… な? 」

圭が真剣にそう聞くと、旭にもその思いは伝わったのだろう、その優しい心遣いにホッと温かい気持ちになったらしい旭は、薄く開かれた唇を震わせながら言葉を選び、ゆっくりと答えた。

「怖いかって、聞かれたら、そりゃあ怖いよ、少し、ね…… でもいいんだ、俺も、たぶんそうして欲しいと思ってるから」
「旭くん…… 」

健気な言葉に感激した圭が嬉しそうに顔を見上げると、旭は恥ずかしそうに目を伏せて、消え入りそうな小声で言った。

「圭くんのコト、好き、だと思う…… この気持ちが記憶を失くす前から引き継がれてきたモノなのか、それとも一目惚れしちゃったのか、そこまでは自信ないけど、好きって気持ちだけはちゃんとあるから…… でも、」
「でも? 」

圭が聞き返すと旭は顔を赤くして本当に泣き出しそうな表情で小さく言った。

「ごめん、お願い…… 灯り消して、」

旭の言葉にハッとした、確かに、初めてに近い旭にとってこのまま身を任すのだって相当な勇気が要る事だろう、煌々と灯りのともる明るい寝室でなんてとんでもないコトだ。
以前の旭もよく灯りを消してくれと懇願した、でも自分の欲望に負けて、旭の要求を通してあげたコトは少なかったように思う。
圭も、以前旭の要求に応じて一度だけ旭に抱かれたコトがあるが、その時、煌々と灯りに照らされる中で抱かれるコトの、どうにも出来ない恥ずかしさに泣きたくなったコトを思い出した。
旭の要求は当然だ。
しかも今の旭は気持ち的には初体験なんだし、あんまり苛めるワケにはいかない。

「ごめんなさい、俺のほうこそ、気付かんで…… 今消します」

そう言って、圭はいったん旭から離れ寝室の灯りを消すと、ベッドサイドの小さなスタンドだけ点けた。

「すいません、コレくらい許してくださいね、俺も旭くんの顔を見ていたんです」
「……ぅん、」

震えている身体をベッドへ横たえさせながら優しくそう言うと、旭も泣きそうな瞳を伏せて小さく頷いてくれた。
その仕草がまたツボに嵌るほど可愛らしくて、圭は堪らなくなり夢中で旭の名を呼びながら唇を塞いでいく。
二人の夜はまだ、始まったばかりだった。


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旭は圭を思い出せるのか…… ?

1.絶対思い出せる!
愛の力に不可能はない!!!

2.思い出せない。
世の中そんなに甘くない。

3.思い出せないけど、
またちゃんと好きになれるからそれでもいい。

4.その他

さあ、どっちへ転ぶんでしょうか?
または、どっちに転んで欲しいですか?

恋する詩神 121

― 螺旋上の恋 15 ―

あの、礼儀正しく気が利いて洒落もわかり、素晴らしくカッコイイ圭が…… 自分の恋人?
信じられない。
今まで自分はあの彼とどんな風にすごしていたんだろうか?
会っていきなりキスされて、不覚にも感じてしまった。
さっきもあの端正な顔が目の前にあり、心臓が止まりそうなくらい驚いているうちにまたキスされて…… 。
なんか…… ヤバイ。
洗ったげますよ、なんて言われてのぼせ上がって、でも今日は一人でどうぞって…… 今日は? ってコトはいつもは違うのか?
どうしよう…… この先まだなんかあるんだろうか?
旭は湯に浸かりながら頭の中がボウッとしてくるのを感じていた。

でも、隆史も純も、自分に以前と変わったトコロはドコもないと言っていた。
そのまんまの自分でいいと言ってくれていた事を思い出し、旭はモヤモヤと蟠る拘りを払拭させた。
あんまり気にするのはよそう、たぶん今までの自分から考えて、圭の前でもそれほど身構えて接してはいなかったハズだ。
だいたい身構えてたら続かない…… 。
旭は変に意識するのはよそうと決め、風呂から出た。

自宅へ戻ってからの風呂上り、普段旭はだいたい厚手のバスローブ一枚羽織るくらいで殆んど何も着ない。
資料に目を通したり、メールやスケジュールの確認をしたり、作曲もそのままの格好でやっていた。
眠る時も殆んどそのままで、素裸の時もある。
だから今日もそれでいいかと言えば、少し違う、今日は、一応恋人とはいえ、人が来ているワケで、まさかバスローブ一枚、というワケにもいかないような気がする。
かといって風呂上りに着るような服もそんなに持ってないし、だいたい服を取りに行くには、圭のいるリビングの横を通っていかなければならない、どうしようかと考えたが、さっき拘らないと決めたのだ、このままでいいや、……そう決めてバスローブのままリビングにいる圭にチラリと顔を見せた。

「圭くん、待たせちゃって悪いけど、もう少し待っててね、なんか着てくるから……」

だが、そう声をかけると、圭はスイッと立ち上がり、旭に近づいてきた、手になにか持っている。
「そのままでいいですよ、それよりはい、コレ、」

「え? あ…… ありがと」

手渡されたのはシャンパングラスに満たされソルベのようなものだった。
綺麗な金色のソルベ…… 旭は圭に促されるままそのソルベに口を付ける、ほんのり甘くて爽やかな芳香が広がる、アルコールも入っているようだ。

「あ、美味し…… コレ何? 」
「シャンパンシャーベットですよ、こないだ出た料理番組で出されて、美味しかったんで作り方を教わってきたんです、旭くんが好きそうやと思って」

「うん、美味しい、好き」

風呂上りという事もあり、旭は嬉しそうにそう言って、冷たく冷やされたグラスの中身をみんな空けてしまった。
相変らず、酒類には目がないらしい。
圭はまだありますからどうぞ、と言って、そのまま旭をラブソファに座らせる。
二杯目のシャンパンシャーベットを手渡し、当然、自分もその横へ座った。
酒の入った旭はさっきよりずっと寛いだ様子で警戒心が緩んでいる、すぐ隣にきて腰に手を回しても別段気にする様子はなかった。
圭は、機嫌よく二杯目のシャーベットに口を付けている旭の耳元へ軽く口づけて微笑んだ。
「喜んでもらえてよかったです、旭くんが喜んでくれるのが一番嬉しいですから」
「圭くん…… 」
旭は少し恥ずかしそうに圭を見て小さな声で聞いた。

「圭くんは、飲まないの? 」
「俺は車で来ましたから、……それに、旭くんから少し分けてもらうからええんです」
「え…… ? 」

そう言うと、圭は怪訝そうに首をかしげている旭にまた軽いキスを送る。
ほんの軽い口づけなのに、旭は肩を震わせ、泣きそうな顔をしていた。
少し冷えた唇が甘く香っていて、旭に触れるのも二週間ぶり、という事もあり、圭も我慢できなくなってきていた。
抱き寄せて、肌を合わせ、旭の左手に握られていたシャンパングラスをソッと取り、落とさないようにテーブルにおく。
そしてもう一度唇を重ね、今度は貪るように何度も攻めた、旭が小さく喘いでズルズルと背もたれからずり落ちていくのがわかる。

「ん…… ふ、」

キスに弱い恋人は、たった一口のアルコールと軽いキスだけで濡れた目を向けてきて、圭の欲望の元を大きく揺さぶった。

「甘いですね旭くん」
「……ぇ? 」

濡れた瞳で見上げてくる旭の頬に耳元に口づけて、圭は記憶のない旭を怯えさせないように気をつけながら優しく囁いた。

「シャーベットの味がします、……あと、旭くんの味」
「俺の味…… ? 」

先ほどのキスでもう半分以上蕩けているらしい旭は、ボウッとした視線で圭の言葉を繰り返している。
圭はそっと旭の顔を覗きこみながら、真剣な目を向ける、この後の段取りとか、記憶のない旭にもう一度惚れてもらう為の努力を色々と考えていたのだが、なんだかもうそんなコトどうでもよくなってきてしまった。
おとなしく腕の中に収まっている旭の肩を軽く押し、ラブソファに横たえて唇が触れる手前まで近づいて囁く。

「そう、旭くんの味や…… とても、甘い」
「……え? ぁの、」

「旭…… 」

視線を外さないまま、圭は旭の唇をまた塞いだ。
旭は少し身動ぎしたが、思ったほどの抵抗はない、ソレに気をよくした圭は、甘く香る唇を思う存分に味わい、息苦しさに喘いだ旭を追い詰めていった。
「や…… 嫌っ、や…… ん」
旭は涙声になり、首を振って逃げようとする。
追い詰めちゃダメだ、旭にとって自分はまだまだ初対面と同じなんだから、急いちゃいけない。
そうわかっているのに、止められなかった。

「旭くん、旭くん、どうか逃げんでください、無理強いはしたないんです、でも俺かてずっと待っとった、旭くんに会えん二週間がどんだけ長かったか…… お願いします、逃げんでくださいよ」

「けい…… くん」

「お願いします…… 」

圭の言葉は最後、消え入りそうになった。
今まで自分達がどんな風に会い、どんな風に話し、どう付き合ってきたのか、具体的な記憶は出てこなかったが、圭の言葉には切なさが伝わってきて、胸が痛んだ。
どうしたらいいのかわからない、「好き」という感情はある。
その曖昧な感情だけでここまできた、キスされて、それだけで怖いくらい感じてる自分も自覚できる。
ただその先に何があるのか、ソレを考えると怖くなった。
自分はこの青年と何をして過ごしていたのだろう?
口づけの先にあるモノってなんなんだろう?
旭は圭の情熱に圧され、その先を許すコトが怖くて、でもその先を欲しがる自分もその身の内に確かに存在してるコトも感じていて、言葉が出せず返事が出来なかった。
圭も、自分が急いているコトはわかっていた、でも、言い出したら止まれなくなってしまったのだ。

「旭くん、好きや…… 」

真剣な声でそう告げて唇を塞いだ。
万が一にも旭から拒絶の声を聞きたくなかったからだ。
何度も求め、舌を絡ませ、嫌と言えないように旭の弱いトコロをしつこく刺激してやりながら追い詰めていく。
だが旭は、圭の早すぎる求めに熱くなる身体の反応に戸惑い、そして底なしの井戸の底へおちていくような恐怖感から、逃げようとチカラ任せに圭の身体を押し返し、首を振った。

「嫌っ! けい…… 圭くん、ヤダ止めて、ヤメテ!! 」

そう叫んだ旭は、押し倒された姿勢のまま横を向き、きっと泣き顔を見られたくないのだろう、両手で顔を隠し、泣いた。
そうなってはじめて圭は、自分が急ぎすぎたコトに気付き、慌てて旭を押さえつけていた手を離した。
掴んでいた手首が赤く痕になっている。
そんなに強く掴んでいたのかと呆然とした。
怖がらせるつもりはなかった、でも、表面上、どこも前と変わらないように見える旭を見ていると、ついつい以前と同じ旭だと錯覚してしまい、欲しくて仕方なくて、どうしてもその先を急いてしまったのだ。


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天龍へのアンケート


結局、圭はどっちがいいの……?

1.やっぱり、初めての相手は忘れられないものですよ。
風祭蒼太

2.好きなのはやっぱりアナタだけです。
倉橋旭

3.ゴメンなさい。
やっぱり両方欲しいです。
そんなのズルイですか…… ?


さて、正解はどれでしょう?


DRAGON φ MUSES 8

コトッ。

小さな物音に気付いて振り向いた圭が障子を開ける、そしてソコにいる春海を見てドキリとした。
「津田…… っ、お前、今の見て…… ?! 」

「見てたよ、それがなに? ってか旭さんは知ってるの? 圭くんがこんなトコで浮気してるってさ、」
「お前! まさか旭くんに…… 」
その時、春海の挑発にうかうかと乗り、掴みかかりそうになった圭の後ろで蒼太が怒鳴った。

「圭! お前はカラになった皿下げて洗っとけ、」
「え…… や、でも、」
「ええから、早よ行かんか! 」
「ッ ……ハイ、」

蒼太に促され、圭は渋々春海を睨んで下がっていった。
そして後には座敷に座り込んで煙草を噴かす蒼太とその入り口に佇む春海が残った。

「津田…… 春海くんやったかな、悪い、灰皿取ってんか? 」
「俺、客ですよ、客にやらすんですか? 」

「立ってるモンは客でも使う主義や、早よせ、灰が落ちるやろ」

座敷の真ん中で蒼太は不敵に笑いながら咥え煙草でそう言った。
春海は後ろのテーブルに置いてあった灰皿を手に取り、座敷の中へ入って、後ろ手で障子を閉める。
そして、つかつかと、物怖じせず蒼太の傍へより、灰皿を差し出した。

「サンキュ」

蒼太は、春海の持ってきた灰皿に灰を落としながら上目遣いに春海を見た。

「で? 自分、倉橋に言う気なんか? 」
「……言うかもしれませんね、圭くんは蒼太さんとキスしてました、って言ったら旭さんどんな顔するかなって考えると面白いでしょ? 圭くんさえいなくなれば俺にだってまだチャンスはあるかもしれないしね」

春海は毒を含んだ無邪気な微笑でそう答える。
一見女の子のように可愛らしい外見からは想像出来ないくらい、中身は色々詰まっていそうなその笑みに、蒼太も興味を持った。
フッと笑って人差し指で手招きをする、春海はなんですかと呟きながら少し傍へ近づいた。
蒼太は近くまできたアイドル俳優の後頭部に掌をあて、グイと引き寄せ、思い切り吸い込んだ紫煙と共に口づける。
そしてキスするコトに慣れているらしい春海の反射的に開かれた口腔内に肺の奥まで届くくらい、煙を吹き込んでやった。
すると春海は忽ち咽て咳き込みながら、慌てて蒼太から離れる。

「なっ…… なにする、んですか…… アナタは…… っ、」
「なにって口封じ、やろ? ……こんでお前も相子やないか、」

咳き込みながら文句を言う春海に、ニヤリと笑いながら蒼太がそう言うと、春海は意外に強気でにらみ返してきた。

「蒼太さんも案外甘いですね、これしきのことで俺が黙るとでも? 」
「こんで黙っといてくれればええと思うたが、そうもいかんか…… ? 」

煙草を燻らせながら蒼太が呟く。
春海は蒼太の胸に手を伸ばし、心臓の上をゆっくり撫でながら答えた。

「俺を黙らせる気なら、もう少しサービスしてくれないと、……ね? 蒼太さん? 」
「もっとか…… お前案外がめついな、ココでええんか? 」

蒼太がやれやれというように問うと、春海は惚けた顔で上を向き、暫く考えてからニッコリ笑った。

「場所はここでもいいですけど、今はマズイですね、あとで、……いかがですか? 」
「好きにせい、他の奴等が引けたら来いや」

「……でも、ノコノコ来たら圭くんがいたりして? 」
「心配せんでええわ、……圭は追い出すで、」

そう答えた蒼太は何を考えているのか、視線は自ら吐き出す紫煙の行方を追っていた。


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恋する詩神 120

― 螺旋上の恋 14 ―

旭のマンションに戻り、定位置に車を止める。
その横には旭のGTRも停めてある、つまり、旭はこのマンション内駐車場を二台分借りているコトになり、圭が頻繁に来ていた事がわかる。
圭は旭の手荷物を持ち、先に立って階段を上がる。
旭は実は閉所恐怖症も僅かながらあり、狭い閉鎖空間にいると息苦しくて堪えられなくなるコトが多かった。
ソレを知っているのだろうか? 圭は六階にある旭の自宅まで階段を使ってくれる。
自分がどれだけ圭に依存し、頼り、全てを預けていたのかがわかるというか、圭がどれだけ自分を大事に思ってくれてるかがよくわかる気がした。

「旭くん、鍵、かしてください」
「あ、鞄の中に…… 」

そう答えながら旭は少し意外な気がしていた、圭の分も駐車場を確保してあるくらいだから、合鍵くらい渡してあるのだろうと勝手に思っていたのだが、どうやら持っていないらしい。
圭は鞄を開けていいかと確認を取り、旭がうんと言ってからファスナーを開け中から部屋の鍵を出した。
そしてまたチラリと旭に振り返る。
「開けていいですよね? 」
「あ、うん…… どうぞ、ありがとう」
旭はそう返事を返しながら、想像以上に礼儀正しい圭の態度に感心していた。
付き合い始めて半年ほどだと聞いているが、こんなモノなんだろうか? いやたぶん、コレは圭の気質だ、自分の事をキチンと尊重してくれているのだ。
そう思うと、旭の中の圭の好感度はまたグンと上がった。

圭は誰もいない室内へお邪魔します、とことわってから先に立って中へ入り、荷物をリビングの真ん中へおいてからバスルームへ消えた。
そしてすぐに戻ってきた圭は風呂入れてきました、旭くん入りたいですやろ? とニッコリ微笑んだ。
ドコからドコまで気の利く青年だなと感心する。

「あ、お茶くらいいれようか」
所在無げな旭が呟くと圭はその言葉を軽く制し、先にキッチンへ向かう。
「俺が入れますよ、珈琲だけは(上手く入れる)自信あるんです、旭くんは長旅で疲れましたやろ、そこ座っといてください」
それも極自然にそう言うので、旭も素直にうん、ありがとうと言って座った。
圭の言葉はなんだか魔法のようだ。
あの魅惑的な声でなにか言われると、全てうんいいよと、言いたくなる。
隆史と同じ関西系だが、なんだろう、隆史よりも優しくて、ソレでいて芯の強さを感じさせる、ちょっとだけ怖さも感じさせる声だ。
ぼんやりそんな事を考えているうちに、圭が珈琲を入れて持ってきた。
ハーフミルクの優しい味のするカフェオレだった。
旭の体調と気分を察知しているかのような圭の気配りにまた感心した、丁度飲みたいと思っていたのだ。
向かい合わせに椅子に座り、顔を見合わせて珈琲カップを手に取った。
視線が絡み、どうしようかと途惑った旭へ圭は優しく微笑みかける。

「お帰りなさい、旭くん…… 」

心から嬉しそうに圭が呟く。
旭はその微笑に心を奪われ、少し俯きながら微笑み返した。

「……ただいま、圭くん」

胸がドキドキしているのがわかって自分でも恥ずかしい。
一応、前知識として、恋人だとは聞いていたが、正直なところ、自分に恋人が出来るとは思ってなかったし、まさか初めて出来たその恋人が男の子だとは思ってもいなかった。
男の子、同性相手にそんな風に思えるものだろうかと不安だった。
でも今、圭を前にして、笑っちゃうくらいにドキドキしている自分を感じ、認めるしかなかった。
自分は目の前にいる、この尾崎圭という青年が好きなんだ。
だが、「好き」と意識してしまうと今度はもっと動悸が激しくなってきて、圭に見惚れ、何も考えられなくなる、言葉がでない…… 。
何を話したらいいのかわからず、黙ったまま俯いていると、圭のほうから声をかけてくれた。

「撮影は、どうでしたか? いい絵、撮れました? 」
「あ、うん、おかげさまで良いのが出来たと思う、圭くん、行かせてくれてありがとうね」

隆史から、最初圭は、この仕事に反対していたと聞いていた、それでも話し合い、旭がやりたいのならもう止めないと、頑張って良いモノを作ってきてくださいねと送り出してくれたことを聞いていたのでそれはそれで感謝しようと思った。
だがソレにつけ、一つまた言わなければならないコトを思い出した。

「あ、のね…… そういえばちょっと言っておかなきゃいけない事があるんだけど」
「なんですか? 」

「今度のCM、俺も出ちゃったんだ…… 」
「出た…… って、え? CMにですか? 」

「うん、予定外だったんだけど、そのほうがいい絵が撮れそうだって話で、だから…… あ、スチールあるよ、見る? 」
「はい、見してください…… 」

旭は鞄の中から幾枚かの写真を取り出して圭に渡す、それは隆史が撮影の合間にクライアントに見せるために撮ったもので、CMのポイント部分が収めてある。
渡された写真は、旭がメッシュのタンクトップを着て、緑系の見せパンをチラつかせた腰の浅いダメージジーンズ姿で青い壁を背景に立っている。
少し俯き加減に顔を伏せ、左手で前髪をかきあげチラリと此方へ視線を送っているショットで、やや右寄りに映っている。

「あ、コレはね、この後、CG被せてんだよ、バックは森、で、俺の横には雄鹿がいるの、……ほら、この辺」

そう言って指を差す旭のひたいが、圭のオデコにぶつかった。
「てっ…… 」
「あ、ごめん」
そう呟く旭の顔が間直にあり、なんだかいつもと変わらない、変わらなすぎる旭の態度につい、錯覚を起こしそうになる。
ココにいるのはいつもの旭だと…… 。
圭はその首筋に手を触れ、ソッと引き寄せて唇を重ねる。
チュッと音を立てた軽いキスだったが、旭は、驚いて赤面し、俯いてしまった。
可愛いな…… 。
旭の様子がイチイチ可愛い、というか、新鮮だ。
圭は機嫌をよくしてまた写真に見入る、そして何枚かの写真を見るうちに、一枚の写真に目が留まった。

その一枚を見た圭は顔を顰め露骨に嫌そうな顔をした。
それは浅黒い肌に豹紋を描いてある、黒い下着姿の純が横向きに立っていて、その後ろ、つまり純の横に、たぶん全裸だろうと思われる旭が立っているモノだった。
二人の身体が重なって、その全身は見えないが、なにも着ていないコトはわかる。
そして右半身に緋色の炎のようなタトゥを入れた旭は純の左胸辺りに掌をあて、不敵な笑みを浮かべている。
それはまさしくピッタリくる絵で、誰が見ても見惚れると思えた。
思えたが、気に喰わない。
その他にも、旭一人のバージョンもあり、それはとても綺麗だったし、写真としては気に入ったが、際どいくらいに肌を晒した旭を他の大勢の人間に見せるのはやはり気に入らない。

「……あ、やっぱりダメ? 怒ってる? 」
圭は自分が純と仕事をするコト自体、嫌がっていたと聞いていたので、少し不安になった旭が訊ねると、圭は少し不機嫌そうな目をしながらも、静かに答えた。

「行っていいと言ったんですから、怒ってませんよ、と言えればカッコイイんやろうと思いますけど…… スンマセン、俺は修行がたらへんので…… ちょっとムカついてます、でも、いい絵やと思います」

一瞬、空気が凍ったような気がした。
圭の眼差しが怖い。
そう感じた瞬間に圭は席を立った。

「丁度ええですわ風呂、湯が入った時間です、旭くんどうぞ、」
「え、あ…… うん、」

何となく義心地ない気持ちで立ち上がり、歩き出すと、圭が後ろからついてくる。

「あ、の…… ? 」
オズオズと振り向くと、圭がニコッと笑った。
「久しぶりやし、一緒に入りましょか? 洗ったげますよ? 」

「え? えっ? エエッ?! ……や、え、あの! 」

旭は慌てて後ろに下がり、真っ赤になってうろたえた、記憶がないのでたぶんそういう心準備がないのだろう。
圭はまさか初っ端からそう出られるとは思ってなかっであろう旭にちょっと同情しながら手を振った。

「冗談ですよ、邪魔せんですから今日は一人でゆっくり入っといてください」
「あ、……ぅん」

旭は少しオドオドしながら風呂場へ消えていき、圭はその後姿を見送りながら次の計画を練っていた。


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拓巳はいったい誰が好きなのか……?

1.守谷さん
2.雪柾
3.藤木さん
4.美鳥
5.自分 ww

さてさて、どれだと思います?

DRAGON φ MUSES 7

カウンター内で横並びになり、タコと胡瓜の山葵和えの作り方を教えてもらう。
当たり前だが、さすがにプロ、手つきが違うなとついつい蒼太の手元に見惚れ、チラリと窺った横顔に見惚れた。
圭はまるであの日からずっとこうしていたような甘酸っぱい錯覚に陥っていた。
やっぱり、自分はこの人がこんなに好きだ、見つめる視線も自然と熱っぽくなる。
蒼太はそんな圭の視線に気付いてだろう、客が減ったところで店の奥、座敷になっている部分へ歩き、ついて来いと視線で誘った。
圭はノコノコとついてくる。
蒼太は座敷の中へ入るなり、戸を閉め、素早く閉鎖空間を作った。

「圭…… 」

名前を呼ばれてついうかうかと顔を上げると、後頭部に伸ばされた蒼太の手に引き寄せられて鼻先がぶつかりそうなほど間直になった蒼太の目に見つめられ焦る。
慌てて離れようと思った矢先、後頭部に当てられて蒼太の手に押され離れられないまま口づけられてしまった。

「ゥ、……ん、ん」

そんな展開を、正直考えていなかったワケではない、……というより望んでさえいたような気がする。
蒼太の口づけは圭を子どもに反してしまう、さっき蒼太が春海と楽しそうに話していた事を思い出し、独占欲に溺れたせいもあるのかもしれない、その口づけと、蒼太の匂いに夢中になった。
店の座敷で仕事中に交わされる口づけはひどく刺激的で、いつ誰がその障子を開けるかもしれないという思いもあってツイツイいつも以上に熱くなった。

唇を食み、熱い舌で翻弄されて圭の中で時間が巻き戻っていく、十三歳、はじめて蒼太にキスされて、その怖さと今だ未経験だった性の疼きに焦らされ、思わず泣いた。
自分が自分ではないモノに変わってしまう恐ろしさに震えながら、それでも蒼太の腕にしがみつき、もっと先をと強請っていた。
その先に何があるのかも知らず、それでも蒼太の求めに応じたかったし、圭も蒼太を求めた。
あの日からずっと、蒼太は自分の憧れであり、精一杯手を伸ばしてようやく届いた背中に触れることが嬉しかったコトを思い出す。

「お前、なんて顔してんねん、最低やな、浮気モン」

唇を離すと、蒼太はなぜかとても不機嫌そうにそう言って圭の広いひたいにデコピン一発を入れた。

「い、痛いです! もう、何でです、今のは先輩が勝手にしたんないですか、俺は関係ないですよ! 」
「アホ、誘うたんはお前やで、」

「誘ってませんよ! 」
「誘っとったやろ、してくださいって顔しとったやないか恥ずかしい奴やなホンマ、」

蒼太に指摘されて圭は耳まで赤くなりそうになった、顔面から背中から、ドッと汗が噴き出る。
確かに、誘ってたかもしれない、春海に盗られるのが癪で、蒼太が自分を好きでいてくれるコトに甘え、春海より自分のほうが蒼太に近いところにいると鼓舞したかったのかもしれない。
赤くなって俯く圭を蒼太は煙草を咥えてジロリと見た。
睨まれた圭が慌ててその煙草に火を点ける、蒼太は一息に煙を吸い込んで、でもすぐには吐き出さず暫く味わってからゆっくりと吐き出した。

「さっき、電話しとったのは倉橋にやろ? 」
「あ、はい、今日は用があって行かれんて連絡を…… 」

「なんぞ言っとらんかったか、アイツは」
「や、別になんも…… 」

「そうか、なら別にええわ」

自分が圭を引き止めたのだから、当然隆史は旭を誘ったハズだ、だがなぜか旭はソレを圭に言わなかった、それはどういうコトになるのか…… ?
だがソレをワザワザ圭に教えてやるほどお人好しでもない。
蒼太は煙草を燻らせながらどう料理したものかと、横目で圭を、そして障子の隙間からコッチを覗いている春海を見ながら考えていた。


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+咎人の恋+ 43

― 黄金の月 15 ―

見開かれた瞳をあげて浮岳を見つめる蓮の頭の中は数え切れない黒光りする百足の群れに占領され、意思と感情が消えていく。
目の前が黒雲に覆われ、浮岳の顔さえもう見えなくなっていった。

「返せ…… 」

フラフラと立ち上がり、ルビーの握られている浮岳の右手へ手を伸ばす。

「なんだお前、コイツが欲しいのか? お前は俺の奴隷なんだぜ、奴隷の持ち物は主である俺のモンだ、返してほしけりゃそこに土下座しな、」

思わぬ蓮の反応に浮岳は面白そうにそう言ったが、蓮の耳には届いていなかったらしい。

「返せ! ソレは薙が…… 薙が俺にくれたんだっ!! 」

そう叫んだ蓮は、伸ばした右手で浮岳の胸座を掴んで引き寄せると素晴らしく破壊力のある左拳で顔面を殴った。
吹き飛ばされベッドの縁に頭をぶつけた浮岳は、まるで脳震盪でも起こしたように、暫く呆然としていた。
それは身内にさえ手を上げられたことのない浮岳にとってはじめての痛みだったろう。
しかし、そんなコトよりも、いつも従順で自分の言うコトには一切逆らわなかった蓮が、まさか激高して自分を殴るとは思っていなかったのだ、その衝撃のほうが大きかった。

「貴様、浮岳様になんてコトを…… っ」

後ろに控えていたボディガードも、まさか蓮が浮岳に逆らうとは思っていなかったらしい、反応が遅れ、浮岳を守れなかった事の責めを負わされないよう、必死なのだろう、五人がかりで蓮を羽交い絞めにするようにして取り押さえ、拘束した。

「浮岳様、どういたしますか? 」
そう訊ねられた浮岳は殴られて少し血が出てきた唇の端に気付き、その血を拭いながら立ち上がる。

「脱がせろ…… 」

たぶん、思いもよらない蓮の反抗に冷静さを欠いているのだろう、それまで考えていた遊びのような攻めを全て忘れ、ただ蓮のプライドを引き裂く事のみに執着した。
そして冷たく怒りの篭った目で蓮を睨み、ボディガードの男達に姦通することを強要する。
こうなったら蓮がいつものように大人しくいう事をきかないだろう事を考え、それならそれで、無理矢理ヤラれる屈辱を味わえばいいと、思ったからだ。
いくら蓮が強情でも、五人立て続けに強姦されれば大人しくなるだろうと思ったし、それは普段自分を守っているハズなのに、守れなかったボディガードたちへの制裁の意味もあった。
男を抱くことなんて考えてもいなかったであろう奴等にソレをワザワザさせる事で制裁にしようと考えたのだが、その考えの途中でつい、笑ってしまった。
コレを機に奴等も蓮に夢中になるかもしれないなと思ったからだ。
それならそれも面白い、執着心のあるモノの責めはきっとなににも増して効くだろう。
見ている自分もずいぶんと楽しめそうだ、……そう思った。

だが大柄な男達に抑えつけられ、着ているモノを乱暴に引き剥がされようとも、蓮の浮岳への憎悪の炎は消えるコトはなかった、押さえつけられた腕が折れるのではないかと思うほどに暴れ、その抵抗は今までになく激しい。
その抵抗を見ているウチに、浮岳の中に奇妙な感覚が湧き上がってきた。

そんなに、コイツが欲しいのか?
こんな小さな安物の石が欲しいのか?
それはコレが、さっき俺に逆らい怒鳴りつけた会長補佐、柳原薙の贈り物だから欲しいのか?
そんなにアイツが好きなのか?
アイツに惚れているのか…… ?

ソレは俗に言う「嫉妬」というモノだったが、浮岳にはわからなかった。
浮岳は二十四歳の時はじめて十七歳の蓮にあった。
生意気な目をしていた。
さぞや抵抗するものと思っていたのに、蓮は抵抗しなかった。
それからずっとお気に入りの玩具として傍においた、蓮以外の玩具が色褪せて見えるくらい、蓮は可愛い玩具だった。
そして白峰の会長が死に、自分としても伸るか反るかの一大事のとき、蓮は貴方を死なせたくないのですと言って泣いた。
その時から、浮岳の中で何かが変わったのだ。
蓮が血の通わないただの人形であるとは思えなくなった。
自分の命令に従順に従い、屈辱にも堪え、連合のために自分のために懸命に働く蓮を、浮岳はいつの間にか好きになっていたのかもしれない。
だが蓮の献身が、うわべだけのものだという事もちゃんとわかっていた、だから本気にならないよう、無意識に気をつけていたのだ。
だからかもしれない、浮岳は自分がどれほど蓮を愛しているかに気付けなかった。
薙に嫉妬している事がわからなかった。
わからなかったが不愉快だ、自分の玩具であるハズの蓮が自分以外の人間に執着するなんて許せない。

「お前は奴隷以下だ、お前は生き物ですらない、お前はただの玩具なんだ蓮…… 玩具であるお前に飾りは要らない…… 」

そう呟き、浮岳は蓮に背を向けると部屋の隅にある流しの排水溝にその石を投げ捨てた…… 。

赤い石が、弧を描いて空を舞う。
そして吸い込まれるように流しの排水溝へ落ちていく。

男達に押さえつけられ、無理矢理こじ開けられる痛みの中、蓮の目には、小さなその石が排水溝に落ちていく様が、まるでハイモーションカメラで撮影されたフィルムのように、残像を描きながら見えていた。
小さな石は、音もなく、暗く湿った排水溝に吸い込まれ、その後は、もう跡形もなかった…… 。

 ―――― ピ、シ…… ッ ――――

その瞬間、その刹那、蓮の意思と、理性は完全に死んだ。

暫く呆然と石の吸い込まれた流しのほうを見ていた蓮が、突然この世のモノとは思われない奇怪な叫び声を上げて泣いた。
そのあまりに異常な光景に一瞬怯んだ男達を信じられない怪力で振り払い、立ち上がる。
そしてまるで獣人のように天を仰いで叫び、その勢いに気圧された浮岳に跳びかかっていった。

「やっ止めろ! 」
「離せ、」
「浮岳様!! 」

怒号が飛び交う中、蓮は殴られようが蹴られようが、いっこうに浮岳から離れず、その首を物凄いチカラで締め上げた。
忽ち浮岳は泡を吹き、失禁して気を失う、だがそれでも蓮はその手を離さなかった。
ゴキッと鈍い音がして浮岳の首の骨が折れ、完全に息絶えても、蓮はその手を離さない。
そして数分も締め上げた頃、ようやく手を離し、あまりの異常さに腰が抜けたように動けなくなっていたボディガードたちに向き直った。
ゆっくりと振り向いた蓮の目は完全に逝ってしまっていた。
蓮の目にはソコにいる男達がみんな地獄から這い出てきた醜悪な化け物に見えていたのかもしれない、恐ろしい叫び声をあげ、まるで獣のようなチカラと速さでその化け物をブチ殺しに走る。
そして途中そこいらに落ちていた拷問用具の